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Selfishly

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『駄目な男』 act6「恋の障害物 1」


駄目な男   


          Act 6「恋の障害物 1 」
H19,10/1 20:30


恋には障害が付き物だ。
そして、その障害が程よく有るほど、人は相手に執着度を上げる。
が、障害が大きすぎれば、断念し、脱落する者も出てくるだろう。

まぁ、そんな世間一般の意見なぞ、気にもしない者も、
当然、居るわけで・・・。


ごくごく普通に、いつもと変わらぬ出勤前の朝。
ロイ・マスタングは、今日も大変機嫌が良かった。
目の前には最愛の者が座ってくれており、しかもお手製の料理まで
用意されているのだ。
一緒に暮らしていれば、当たり前の些細な事なのに、
この男は、慣れるとか飽きる事無く、その環境に幸せを感じ続けれている。
恋人に持つなら、大変、やりやすく、お得な人物だろう。
まぁ、たまに、常にハイテンションな恋人を煩わしく感じる事は、
あるのかも知れないが。


「エドワード、今日の目玉焼きも、素晴らしく美味しいよ!
 このサラダも、実にいい味が出ている。
 君は本当に、料理が上手いね」

ニコニコと、嬉しそうに褒めちぎる相手に、
エドワードは、ああとか、うんとか気もそぞろな相槌を打って返しているが、
返されているほうは、気にもならないのか、
食べるより、褒めている方が多いのではないかと思うように、
次々と褒め言葉を綴っていく。

が、フライパンに落として焼いただけの卵や、
洗って千切って放り込み、市販のドレッシングをかけただけのものに、
誰が作っても、さして違いはないとは思えるのだが、
恋の力は偉大だ。
ロイは心底、感心・感動しているのだから。

料理から始まって、エドワードの事を褒めるのに移り始めていたロイの話を、
エドワードは、嘆息を付いて、話を遮るように声をかける。

「なぁ、今度の総議会開催中なんだけど・・・」

ボソリとエドワードの落とした言葉に、ロイは嬉しそうに聞き返してくる。

「うん?」

エドワードに話しかけられた事に、更に機嫌を良くしているのか、
笑顔も3割り増しに輝いているように見える。

「そのぉ・・・、出来ればなんだけどさ・・・」

言いにくそうに、言葉を途切れさすエドワードの様子に、
「うん、うん」と促すように相槌を送ってくる。

「あんたが嫌じゃなきゃ、そのぉ・・・アルの奴が、
 ここに泊まりたいって、言って来てるんだ」

それだけ告げると、ロイの様子を窺うようにチラリと視線を向けてくる。

「ああ、なるほど。 そう言えばアルフォンス君も来るんだったね」

納得したと言うように頷く相手に、エドワードも首を縦に振る。

アメトリスが民主国家になり、各市町村の自治権が認められると、
そこに市民から選ばれた市会議員は誕生した。
エドワードも、アルフォンスも、リゼンブールの市会議員で、
ロイは国会議員だ。
今回初で、議員達を集めての総会が行われる。
初の事でもあり、討議される項目が多いので、総議会は1週間の期間で
セントラルで開催されるのだ。

今まで、頑として、エドワードの招待を受けず、
ロイの屋敷に来ようとしなかったアルフォンスが、どういう風の向き加減か、
期間中の滞在を願ってきたのだ。
エドワードとしてみれば、久しぶりの兄弟の再会の時間は
当然、嬉しいし、願ってもない事なのだが、
正直、この屋敷に呼んで良いものなのか悩んでしまう。
アルフォンスは、少し、いやちょっとばかり・・・かなり、ロイの事を
良く思っていない。
その彼がわざわざ、ロイの屋敷に逗留したいなど、どうにも不穏な気がして仕方が無い。
あの弟の性格なら、違う所に宿を取り、そこにエドワードと一緒に
泊まりたいと言い出すほうが、納得できるのだが。

小難しい表情を浮かべているエドワードに、ロイは不思議そうに首を傾げる。

「いいじゃないか、久しぶりに逢うのだろう?
 ここに逗留してもらえれば、ゆっくりと話す時間も増える事だし」

何をそんなに悩んでいるのだろうかと思うように、不思議そうにしているロイに、
エドワードは、胡乱な目を向け、はぁーと大きな嘆息をつく。

そう。 ロイは、全く気にしていないのだ。
結構、邪険に扱われていたような気もするし、明らかな敵意を向けられていたにも
関わらず、全くそんな事には頓着していず、もしかしたら、
気も付いていないのかも知れないと思わされる位だ。

「うん・・・、そうなんだけどさ。

 もしあんたが困るようなら、俺らがどこか宿とかに泊まるのも
 いいかなぁと」

そう言いかけたエドワードの言葉が、最後まで言い切られる前に、

「アルフォンス君には、勿論、ここに泊まってもらいなさい。
 いや、絶対にそうしてもらってくれ!」

『と思ったけど、それはあんたが許さないだろうな』と言う言葉は、
エドワードの口の中で消えて言った。

「やっぱり・・・。
 そう言うよな。 じゃあ、仕方ない、アルフォンスには、
 ここに泊まってもらう事にするよ」

渋々返事をするエドワードと打って変わって、
ロイはホッとした表情を浮かべ、その後ニコニコと笑顔を浮かべている。

「ああ、それがいい。 何せ、部屋は余りに余ってるんだ、
 わざわざ、兄が住んでいるところがセントラルなのに、
 他に泊まることはないだろう?
 勿論、君が泊まりに行くなんて、とんでもない」

ブルブルと首を振るロイに、エドワードも仕方なさそうに頷く。

「んで、出来るだけ、アルフォンスの癇に触る言動は
 控えてくれよな?」

これも無理だとは思うが、一応、念だけは押しておく。

「? 勿論、そんな事はあるはずが、ないだろ?」

心外なと驚くロイに嘘はない。
そう、彼は全く気にもせず、気づきもしていないのだから。


恋には障害は付き物だと言われるが、障害に気づかないほど
一直線なら、障害物もその役目は果たすこともないのだろう・・・。




アルフォンス到着の当日。

「彼は、何時ごろに着くのかな?」

「う~ん、そろそろじゃないか?
 直接、家に行くって言ってたからな」

せっせと、客室の準備を進めているエドワードに、
ロイが何気なく伺って来る。

「ところで、アルフォンス君の部屋は決めたのかい?」

よいしょと小物を持ち上げるエドワードに、扉を開けてやりながら
通りやすいようにしてやる。

「うん、俺らの斜め前の部屋を客室にしてあるから」

「斜め前? えらく近いな。 2階にも、ちゃんとした客間があっただろ?」

「うん、2階のが立派なのがあるけど、多分、こっちの方が
 良いって事になりそうだから」

 そう告げて、心の中で『自分の為にな』と、今後を予想した結果の
判断を呟く。

「そうかね? しかし、近すぎないかね?
 そのぉ・・・何かと不都合はないかな?
 いや勿論、どの部屋も防音は悪くないとは思うが・・・」

神妙な様子で、考え込んでいるロイが
ナニを考えているのは丸わかりだ。
エドワードは、少し頬を染めて、きつい眼差しで相手を睨みつける。

「馬鹿! 何考えてんだよ。
 先に言っとくけど、アルの奴が居る間は、そおいう事はナシだからな」

ビシッと強い口調で言い切ると、ロイが驚いたように反論してくる。

「なっ! 何を言うんだね!

 彼が居る間と言ったら、1週間もあるんだぞ。
 そんな無理な事が、出来るわけがないだろう!」

恐ろしいものを見るようなロイの目つきに、
エドワードは、がっくりと肩を落とす。

「なぁ~に言ってんだよ。 1週間位すぐだろうが。
 言っただろ、アルの癇に触るような事は、控えろって」


「どうしてそれが癇に障る事なんだ?
 恋人同士なら、当然の営みだろ。
 彼も妻子も居るのだから、そこら辺は理解してくれているはずだ」

心底、理解できないという表情を浮かべて訴えてくるロイにも、
譲らず首を横に振る。

「駄目なんだよ。
 言っとくけど、あるの前で、俺らが恋人同士だなんて言うなよ!
 アルが切れるから」

「何故? 事実そうじゃないか。
 彼も知らないはずはないだろう?」

「アルは勿論知ってる。
 けど、認めてないだけだ」

その端的な言葉に、漸くロイも、自分達、いや自分の立場を
おぼろげながら理解した。

「なるほど・・・、アルフォンス君が、小舅と言うわけだな。

 なら、やっぱり2階の部屋に行ってもらいなさい。
 そうすれば、降りてこない限り大丈夫だ」

何が大丈夫なんだか・・・呆れたように見るが、
何が何でも、譲歩させようとする相手に、
エドワードが、きっぱりと宣告する。

「ダ~メ。 アルの部屋はここ。 んでもって、ナニは
 1週間ナシ!」

「エドワード~」

「泣きまねしても駄目。 で、アルの奴が居る間に、
 恋人言動もするなよ」

そう告げると、さっさと部屋を出て行く。

「なら、2日に1回位」

「駄目」

「じゃぁ、我慢に我慢して、3日!」

「煩い! 2日も3日も4日も、駄目なものは駄目なんだよ!」

あまりにしつこい相手に、気の長くないエドワードが、
癇癪を起こし怒鳴りつける。


恋人の余りにも冷たい対応に、ロイは情けない表情で、
後ろを付き従っていく。
離れていた時ならいざ知らず、一緒のベットで寝るようになってから、
ただ寝るだけで終わった日なぞ、数えるほどしかない。
しかも、そういう日は、大抵、どちらかが疲れすぎているか、
早朝に出なくてはならない理由がある時だけなのだ。
総会中は、通常業務から開放され、定時帰宅が続くと言うのに、
そんな間に、恋人に触れてはいけないなんて・・・。

ロイは、未練がましく、代案を口に出してみる。

「じゃあ、私たちがホテルに泊まりに行こう」

そんな本末転倒な事を言い出した男に、エドワードは頭が痛くなってくる気がして、
米神を押さえ、一言。

「却下に決まってるだろうが!」



さてさて、マスタング家が内部が揉めている頃。

「兄さん、待っててね!
 僕が救い出して見せるから」

意気揚々と、屋敷への道を歩いてくる者が一人。
優しげな風貌も台無しの、ギラギラと物騒な輝きを瞳に湛え、
唇は、悪役者のように胡散臭い笑みを貼り付けている。
彼の敵地まで、後数分・・・。



[あとがき]

前回と、180度反転してしまったストーリー。
あのシリアスは、一体どこ吹く風・・・。
でも、駄目おなら、こんな展開も許されるかと・・・。(無理?)


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